今週の道幸哲也ゼミ

2006年度

[112] 第1回 オリエンテーション (4/11) 投稿者:リッチーヒラガ 投稿日:2006/04/11(Tue) 23:35:59

  今日から2006年度のゼミが始まりました.初回は例によってオリエンテーション.全員の自己紹介のあと,道幸先生からゼミの進め方についての説明がなさ れました.さらにそのあと,不肖ながらワタクシTAりっちーが労働法の入り口のお話を20分ほどさせていただきました.準備に時間があまり割けなかったの で,いまいち何を言っているのかわからなかったり,間違ったことを言っていたりしたんではないかなと思います.ごめんなさい.あのお話は忘れてください.
 今年のゼミ生は15名(登録者ベース).まだまだ緊張しているようですが,ゼミが終わったあと501研究室が新ゼミ生であふれかえりましたので,これは期待できそうですねぇ(って何が??).

 ということで皆さん.今年1年,お勉強を一緒に頑張りましょう.

[113] 第2回 4月18日 投稿者:トヤ 投稿日:2006/04/27(Thu) 19:40:31

契約締結上の過失
日新火災海上保険事件
東京高判平12.4.19労判787号35頁(百選8番)
 昭和56年に大学理工学部を卒業し、数年間自動車製造会社に勤務していた原告Xは、被告Yの求人広告を見て応募し、2回の面接を経て平成3年9月に平成4年1月を入社予定日とする採用内定の通知を受けた。
  Yでは、計画的に中途採用を実施し、労働組合との協議によって、中途採用者を新卒同年次定期採用者の下限に格付けすることとしていたが、求人広告等には 「同等の額をお約束します」と記載し、面接や会社説明会においても新卒採用者と差別しない(ハンディはない)との説明をした。
 YはXを新卒同年 次定期採用者の下限に格付けたが、Xは入社と1年を過ぎた頃に初めてこれを知り、Yに変更を求めたがYはこれに応じなかった。そこで、Xが新卒同年次定期 採用者の平均的給与と自己の賃金との差額及び精神的損害の賠償等を請求した。一審(東京地判平11.1.22労判759号45頁)がこれを棄却したため、 Xが控訴したのが本件である。
判旨
「求人広告は、…その記載をもって、本件雇用契約がXの主張する内容をもって成立したことを根拠づけるものとすることはできない。」
「Xの給与の具体的な額または格付を確定するに足りる明確な意思表示があったものと認めることはできない。」「YとXとの間に、本件雇用契約上、新卒同年次定期採用者の平均的格付による給与を支給する旨の合意が成立したものということはできない。」
「Y は、…内部的には運用基準により中途採用者の初任給を新卒同年次定期採用者の現実の格付のうち下限の格付により定めることを決定していたのにかかわらず、 計画的中途採用による有為の人材の獲得のため、Xら応募者に対してそのことを明示せず、…給与条件につき新卒同年次定期採用者と差別しないとの趣旨の、応 募者をしてその平均的給与と同等の給与待遇を受けることができるものと信じさせかねない説明をし、そのためXは、そのような給与待遇を受けるものと信じて Yに入社したものであり、そして、入社後1年余を経た後にその給与が新卒同年次定期採用者の下限に位置づけられていることを知って精神的な衝撃を受けたも のと認められる。」「かかるYの求人に当たっての説明は、労働基準法15条1項に規定するところに違反するものというべきであり、そして、雇用契約締結に 至る過程における信義誠実の原則に反するものであって、これに基づいて精神的損害を被るに至った者に対する不法行為を構成するものと評価すべきである。」
久慈・鈴木組
○規範
  求人広告、求人票は申込の誘引であるので求人広告等に記載された条件が直ちに契約内容となるものではないが、求人広告等に条件が具体的に表示されており、 かつ労働契約の成立プロセスの中で、契約内容が広告内容から具体的に変更されたと認められない場合には、求人広告等に記載された労働条件が契約内容にな る。
 契約が有効に成立したが交渉の際の説明不足や情報提供に不適切な点があったために、一方当事者の期待に反して不利な条件が契約内容とされた場合には、契約準備段階における信義則違反を理由に契約相手方に対する損害賠償責任が認められる。
○あてはめ
  本件求人広告の内容から、具体的に新卒同年次定期採用者の平均格付けによる給与を支給すると読み取ることはできない。たとえ契約交渉プロセスで具体的な労 働条件の提示がなかったとしても、広告の内容を理由として、平均格付けによる給与の支給の合意があったと認めることはできない。
 被告人事担当者が面接等において原告に対し説明した内容は、原告の給与の具体的な額または格付けを確定するに足りる明確内意思表示であったものとは認められず、新卒同年次定期採用者の平均的格付けによる給与を支給する旨の合意が成立したものということはできない。
 個別的な給与に関する合意があったとはいえないが、就業規則によって具体的な労働条件を決定することは可能であるので、労働契約は有効であり、新卒同年次定期採用者の加減に当たる給与が就業規則よりも上であれば、それを給与額として成立していたとみなすことができる。
 新卒同年次定期採用者の平均給与と同等の給与待遇を受けることができるとの原告の期待にはある程度の合理性が認められ、これは被告の説明不足によるものであるから、被告は労基法15条1項の労働条件明示義務に違反する。
 契約内容について確認しなかった原告にも過失があると考えられるが、これによって被告の違反が治癒されるものではなく、被告は原告に精神的損害を与えたと評価すべきである。
議論
 本件で出てくる「ハンディなし」の表現が意味するところについては、これが中間に位置づけることであるのか、最下限より下げないことであるのかについて議論があった。
ユタカ精工事件
大阪地判平17.9.9労判906号60頁
井馬、田中、棚橋組
 本件では、給与額等、雇用契約の根幹をなす部分で合意がなされ手折らず、雇用契約が締結されていたとはいえない。
  原告が被告に入社するためには、それまで勤務していた銀行を退職する必要があり、被告の対応次第で不安定な立場におかれてしまうため、被告には雇用契約を 締結する過程で、原告に対し信義誠実義務を負う。被告には雇傭条件等の話し合いを早期に実施し、契約締結の早期実現を図る努力をする義務があった。原告が 期待していると思われる給与額よりも低い額で契約を締結しようと判断していたにもかかわらず、これを原告に告げなかったことは誠実義務違反ということがで きる。
 契約締結に関する信義誠実義務の程度は、契約締結交渉の当事者双方の関係によって考えるべきであるところ、本件では、原告は入社の時期を 訪ねられても曖昧な返事をするのみであり、雇傭条件等の協議を求めようともせず、原告は誠実に契約締結交渉をしていたとは言い難い。そのため、被告に課さ れる信義誠実義務は、裁判所が認めるものに比較すると多少軽減されるべきで後考える。
 被告の誠実義務違反によって、原告は再就職先を探す機会が遅延し、また精神的な損害を被った。ただし、原告が銀行を退職したことについては、原告が退職した段階では被告の誠実義務違反を認定できず、損害との間に相当因果関係を認めることはできない。
 よって、被告は原告に対して、原告が再就職先を探す機会が遅延した点と精神的損害を被った点に対して損害を賠償しなければならない。
議論
 ユタカ精工事件については、全員に判旨への賛否が尋ねられたが、地位確認棄却については全員が賛成であった。損害賠償額については、原告・被告の行動への評価の違いなどから増減の主張も見られた。
 また、本件は通常の賃金よりは高い賃金を原告が求めたものであるが、内定後に通常の賃金の約定を求めたところこれを拒否されたような場合には契約の成否はどうなるか、また賃金が確定しない契約の有効性の問題について議論があった。
 今回は、実質的に初めてのゼミでありました。今年度から新しく入ったゼミ生は今回は全員2000字要約したが、これからは毎週のように3人意見を作成することになりますので、頑張って下さい。
 次回は、採用内定の問題です。

[116] 今週は配置転換と不当労働行為 投稿者:みうら 投稿日:2006/05/23(Tue) 21:50:50

5月23日道幸労働法ゼミ
□ 今回は、配置転換をめぐる最高裁判例法理をまず学び、具体的な事件として、転勤・配転の効力と「不当労働行為」の成否をめぐる事件を2つとりあげました。
□ ゼミの冒頭、平賀さんから配転法理と不当労働行為のミニ講演がありました。
□ 今回はけっこう意見交換が活発にされたゼミだったような気がします。結婚直後いきなり単身赴任はさびしいよ、というのは私だけの意見でしょうか。            記録者:三浦保紀
T 最高裁判例「東亜ペイント事件」 最二小判昭61年7月14日 百選36
 勤務地限定の合意がない場合には、「Yは個別的同意なしにXの勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する」。
  「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労 働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許され ないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な 動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する 場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」。「業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いと いった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理 的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである」。
 最高裁は以上判示して、本件配転命令を無効とした原審(大阪高裁判決)を一部破棄し、原審に差し戻した。
U JR東海関西支社(配転)事件 大阪地裁平17年5月11日判決 労判900号75頁
 原告は労働組合(X1)と、本件配転命令を受けた労働者3名(X2、X3、X4)であり、被告は東海道新幹線や東海地方在来線の運行に係わる業務をおこなっている鉄道運輸会社である。
 [事案の概要]                            BY 田中祐季
  原告X2らは、JR採用後大阪にある3つの車両所に勤務し、新幹線の点検・整備作業をおこなっていた。平成7年、被告会社は2つの車両所に「サービス班」 を設置し、X2らに平成8年11月に異動を命じた。サービス班での業務内容は、新幹線の車両や台車検査といった従来の検修業務とは全く異なるものであっ た。これに対し原告組合は、大阪地方労働委員会に不当労働行為救済申立をおこなったところ、大阪地労委は、平成14年2月に被告会社の不当労働行為(不利 益取扱い、支配介入)を認め、異動がなかったものとして取扱うよう命じた。中央労働委員会の再審査でも、中労委は地労委命令の履行を勧告し、審問を終了し た。
 その後被告会社はサービス班を解消したが、原告組合の組合員らで以前の職場に復帰させた者はおらず、X2らには名古屋車両所への配置転換を命じた(「本件配転命令」)。
 原告個人らは本件配転命令にもとづき就労する義務がないことを訴え(配転命令無効確認請求)、原告労働組合は被告会社によって無形の損害を被ったとして500万円の損害賠償請求をおこなった。
 [争点]1本件配転命令が不当労働行為にあたるか
     2本件配転命令の違法性の有無・会社の責任の有無ならびに原告組合の損害の有無と額
 [判決要旨] 一部容認
 1(1)サービス班への配転が不当労働行為に当たるか
  「同一企業内に複数の労働組合が並存している場合には、使用者としては、・・・中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであり、・・・ 一方の組合を助けたり他方の労働組合の弱体化を図るような行為をしたりすることは許されないのであって、使用者が右のような意思に基づいて(差別や不利益 取扱い)をすることは、・・・組合に対する支配介入となる」(日産自動車事件最判)。
 サービス班の業務の内容は、「おおよそ専門技術が必要とな る作業ではなく」、したがって労働者が「左遷させられたとの感情を抱いたり、自己の技能が陳腐化するのではないかという不安を抱いたりしたとしても、それ は特殊なことではなく、通常起こりうること」であり、「このような結果を招くサービス班等への配転は、不利益な取扱いに該当する」。またサービス班への異 動について、「圧倒的に高い割合で原告組合の組合員を配転しているといわざるを得ず」、原告組合員の多くが、他の組合の組合員が配属された部署と比較して 不利益性が大きい部署に配属されている。このような行為は不当労働行為を構成する。
 「原告組合の組合員に対する不利益取扱いであり、原告組合に対する支配介入であるといわなければならない」。
 1(2)本件配転命令の不当労働行為該当性
  中労委の地労委命令履行の勧告後も職場復帰させず、片道2時間以上の通勤を強いられる名古屋車両所への配転命令をおこなったこと、これが相当の負担(不利 益)になること、原告組合員らが組合の役職についていること、などから、「本件配転命令は、合理的な理由がない限り、サービス班等の解消後も、原告組合の 役職に就任している組合員に対して与えられた不利益取扱いを維持するために行われたものであり、原告X2らの(大阪車両所)における組合活動にも支障をも たらし、その弱体化を図ろうとする被告会社の意思を推認できる」。
 そしてこれは「労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に当たる」。そうすると、本件配転命令は、不当労働行為として公の秩序に反するもので無効であるから、原告らは、(名古屋車両所)技術係に就労する義務はない」。
 2不法行為について
  「本件配転命令は、・・・原告労働組合に対する支配介入であ」り、「不当労働行為意思をもって、故意に原告組合の団結権を違法に侵害した」。「被告会社 は、民法709条、715条により原告組合がこれによって被った無形の損害を賠償すべき義務がある」。「原告組合の損害額は100万円と認める」。
【3人意見】宮山、山ア、渡辺      判旨賛成
  判決は、サービス班への配転は左遷させられたとの感情を抱いたり、自己の有する技能が陳腐化するのではないかと不安を抱いたりするのが通常起こりうること であり、このような結果を招くことは不利益取扱いに該当するとしているが、これはあくまで主観的意味での不利益であり、このことのみをもって配転自体が不 利益な取扱いであるといえるかどうかは疑問である。
 (しかし)、当時の他労組との構成比に照らすと圧倒的に高い割合で原告組合の組合員を配転しているし、不利益性が大きいことは明らかである。以上により、本件配転は、原告組合に対する不利益取り扱いであり支配介入である。
  名古屋車両所への転勤も、組合の役職に就いている原告らにとって、通勤時間の負担を強いられ、組合活動にも支障をきたすことが考えられる。被告会社の組合 弱体化の意思を推認することができる。よって労働組合法7条の不当労働行為に該当し、本件配転命令は無効であり、原告らは名古屋車両所に勤務する義務はな い。
 組合への損害賠償も認められる。
【1人意見】小泉        判旨賛成
 被告会社は複数ある労働組合に対し平等に中立的な態度をとっているとは言いがたく、原告らが加入する労働組合の弱体化を図る行為と見られる。支配介入にあたる。
  この配転によって、業務の能率の増進や勤務意欲の高揚がえられるとは考えられない。また、専門的な技術を有しているにもかかわらずその技術を使用しない場 所への配転は、原告らに不利でしかない。本件配転命令は、通常甘受すべき不利益の程度を超えているので、権利の濫用にあたる。本件配転命令は不当労働行為 にあたる。
V JR北海道(転勤命令)事件 札幌地裁平17年11月30日判決 労判909号14頁
 札幌車掌所車掌として勤務していた原告(X1、X2、X3)への、釧路運輸車両所の車掌としての配転(転勤)命令の無効確認をもとめた事案。
[事案の概要]                          BY 大原明大
  被告会社の釧路運輸車両所の車掌配置人員が欠員となることが予想され、当初一部の分担を札幌車掌区の分担をすること(「行路持ち替え」」を検討したが、被 告会社はこれを中止し、助勤か転勤で補充することを検討した。短期間については助勤で対応したが、平成16年2月1日付けで、原告らに転勤命令が出され た。これに対し原告らは、業務上の必要性がないうえ、Xらが所属する労働組合の弱体化を図る目的であること、Xらに不利益を与えるものであるとして、転勤 命令の無効確認を求めた。
 [判決要旨] 請求棄却
 争点1 本件転勤命令が権利濫用に該当するか
 被告会社の業務上の必要性については、欠員補充の具体的な必要性があったこと、深刻な年齢断層問題が存在しその解消の必要性があったこと、抜本的な対策としては転勤という結論にいたった判断には合理性がある。人選も合理的におこなわれている。
  被告会社が5名を転勤させることによって札幌車掌所での原告らが加盟する組合の過半数割れを目的にして画策したとはいえず、他組合と被告会社の密約による ものと結論づけるのは、あまりにも唐突で論理の飛躍がある。本件転勤命令が何らかの不当な動機・目的によってされたものであるとは認められない。
  原告らが被る不利益の程度はどれも切迫した事情とはいえず、従前の他労組からの嫌がらせ行為については被告会社が厳正に対処する旨明言しており、実際に 16年1月8日以降おきていない。よって「原告らに対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせることになるものということはできない」。本件 転勤命令は権利の濫用になるものではない。
 争点2 本件転勤命令が不当労働行為に該当するか
 業務上の必要性が認められること、人選基 準には合理性があること、人選過程において恣意が介在した事情が窺われないこと、組合からの脱退を求める動きがなかったこと、嫌がらせには厳正な対処と指 導を明言していること、などから、被告会社の原告ら加盟の労働組合への支配介入の事情は認められない。したがって不当労働行為に該当しない。
【3人意見】高原、服部、萩原      判旨賛成・・だけどコメントあり
  欠員補充の具体的必要性があったこと、年齢断層問題解消の必要性があったこと、欠員補充の方法として転勤という結論にいたった判断には合理性がある。人選 も合理的にされ、不当な動機・目的にもあたらない。不利益については、苦情処理の申告票に記載されていないことから切迫した事情は認められない。通常甘受 すべき程度を著しく超える不利益はない。本件転勤命令は権利の濫用にはあたらない。
 本件転勤によって原告加入の組合が札幌車掌所の最大組合でなくなるとしても、業務上の必要性が認められるなど、不利益な取扱いとはいえない。他労組からの嫌がらせを黙認していたとは認められないから、支配介入とは認められない。不当労働行為に該当しない。
<コメント>
  就学児童の有無・持ち家の有無・配偶者の有無といった考慮要素となった不利益と、原告が主張する不利益は同程度のものと思われるので、それらを考慮要素と した点には合理性があるとは言えるが、それらの選定基準を用いただけでは適正に選んだとはいえないのではないか。恣意的なものを感じる。
【4人意見】井馬、棚橋、張、山本    判旨賛成・・だけどコメントあり
 欠員補充の必要性、年齢断層問題の対策の必要性が認められ、人事政策上合理性がある。
 人選過程も就学児童、持ち家、配偶者の検討をしており、合理性がある。
  助勤者5名全員が原告加入の組合員であることにいささか不自然な感がないわけではないが、他労組と被告会社の密約によってなされたものと判断するのは困 難。本件転勤命令が不当な動機・目的でされたものとは認められない。不利益性も切迫性・重大性を認めることができない。本件命令は権利の濫用にはあたらな い。不当労働行為にも該当しない。
<コメント>  ン〜、でもやっぱりヘン!
【先生からのコメント】
 東亜ペイント最判 のフレームでは業務上の必要性が認められると、配転命令無効となることはなかなかきびしい。不当な動機・目的も実際にはなかなか立証できない。労働組合法 の不当労働行為が不法な動機・目的に該当するかどうかの判断と、配転全体の有効無効を判断する視点となるのかの論点の違いはでてくるだろう。

[114] 第3回 4月25日 投稿者:安部薫道 投稿日:2006/05/07(Sun) 18:46:21

今週のテーマは採用内定です。
コンテンツは以下のとおりです。
@ 三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)労判189−16
A 大日本印刷事件(最三小判昭和54年7月20日)労判323-19
B 宣伝会議事件(東京地判平成17年1月28日)労判890−5
C 『職場はどうなる 労働契約法制の課題』 第5章「労働契約をどう成立させるとよいのか?」 
★ 三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日)労判189−16
<事実>
第一審原告Xは東北大学を卒業し、被告Y社に管理職要員として採用された。試用期間3ヶ月満了直前に、面接時の虚偽申告(身上書、口頭質問への回答)を理由にして本採用の拒否を通告された。そのためXは労働契約の存在確認を求めて出訴。高裁差戻し審中に和解。
<判旨> 破棄差戻し
憲 法19条、14条は「私人相互の関係を直接規律するものではない」、民法の諸規定を利用しての間接適用による救済を判示。財産権の行使、経済活動の自由が 保障されていることを理由にして、採用の自由を導きだし、本件採用拒否は当然に違法とすることはできないし、思想・信条について申告を求めること自体も違 法行為とはいえない。労基法3条は雇い入れ後についての制限。
<三人意見>
高橋・棚橋・山本:判旨反対
・憲法14条・19条は、民法規定を媒介に私人間に適用される(間接適用説)。
・「思想及び良心のうち、政治的思想・信条に関係のある事項を申告させることは公序良俗に反」し、「本件採用拒否は、公序良俗に反する行為に基づくものであり無効である」。
<議論>
・思想・信条にかかる申告を要求することはできないとしても、虚偽申告をするような者は管理職として不適格であるとの主張に対してどう答えるか?
・趣味の申告を求められるか?
・能力評価にかかわる事項しか聞けないOR虚偽申告可能と解すべきでは?
★ 大日本印刷事件(最三小判昭和54年7月20日)労判323-19
<事実>
大 学在学中に内定をもらうと他の内定を必ず断らなくてはならない、という大学において一審被告Y社から内定をもらっていた原告Xは、本採用直前に「グルー ミーな印象を受けたがとりあえず内定を出しておいた。打ち消す材料が出るのを待っていたがでなかった」ことを理由に内定取消し。Xが出訴。一審、二審とも にXの請求をほぼ認容。Y社が上告。
<判旨> 上告棄却
制約書明記の「採用内定取消し事由に基づく解約権を留保した労働契約が成 立し」、本件事情によれば「採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的に異なるところはない。」グルー ミーなことを打ち消す材料が出なかったことを理由とする内定取消しは解約権の濫用。
<三人意見>
高橋・棚橋・山本:判旨賛成
★宣伝会議事件(東京地判平成17年1月28日)労判890−5
<事実>
大 学院生である原告Xは、入社前に学位を取得することを条件に、Y社から内定を得た。その際、入社前研修への参加が求められたため、Xはこれに同意したが、 その後、研究との両立に支障を感じたため、Yに研修免除を申し出て容れられた。しかしその後、Yは学位取得を採用条件から外し、Xに対して直前研修への参 加を求め、これに参加しない場合は入社試験の再受験をすべき旨をXに伝えた。Xはこれに応じて直前研修に参加したが、Yは研修の遅れを理由として、試用期 間を6ヶ月に延長するか、入社試験の再受験を選択するようXに求めた。
 本件は、XがYの採用内定の取り消しが違法であるとして、債務不履行に基づき、Yに対して損害賠償を請求した事案である。
<判旨>一部認容・一部棄却
本件内定は、始期付解約権留保付労働契約の成立であり、解約権の行使は、「解約権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許される」。
  「効力始期付の内定では、使用者が、…入社日前の研修等を業務命令として命ずる根拠はなく」、入社前研修には、「内定者の任意の同意」を要する。また、使 用者は、「同意しなかった内定者に対して、内定取消しはもちろん、不利益な取扱いをすることは許されず、また、一旦参加に同意した内定者が、学業への支障 などといった合理的な理由に基づき、入社日前の研修等への参加を取りやめる旨申し出たときは、これを免除すべき信義則上の
義務を負っている」。
  本件において、Yが入社試験の再受験という不利益を背景として、かつ、Xの学位取得という「自律的決定事項に干渉しつつ、直前研修に参加することを求める ことは、公序良俗に反し違法」であり、Xの同意は無効である。したがって、直前研修への不参加を理由に内定取り消しをすることはできずない。
以上より、本件内定取り消しは違法である。損害賠償認容額79万余円。
<三人意見>
小泉・戸谷(ま)・田中:判旨賛成
<議論>
・「Xの論文審査終了という自律的決定事項に干渉しつつ、直前研修に参加することを求めることは、公序良俗に反し違法」という判示は不要では?
∵ 失業者の内定の場合、守るべきものがないから研修義務が強化されてしまう恐れあり。
・本件内定は研修がビルト・インされているとみて就業始期付といえなくもないのでは?
・本件では学業が労働者の利益として認められているが、キャリアも同様に考えてよいのでは?
★プレゼンテーション
萩原さん:映画のお話でした。ジョニーデップ主演の「シザーハンズ」が一番のお気に入りとのこと。

[115] 第4回 2006年5月2日 投稿者:鈴木 投稿日:2006/05/08(Mon) 04:56:00

今週のテーマ:個別労働関係における労働者
1横浜南労基署長事件〔百選1〕
 (最高裁平成8年11月28日、労判714号14頁)
 〔事実〕 
 X (原告・被控訴人・上告人)は,訴外A会社と運送契約を締結して,昭和58年9月頃から車持込み運転手として運送業務に従事していたが,昭和60年12月 に,A会社工場の倉庫内での積み込み作業中に負傷した.Xは,本件事故による療養と休業について,労災保険法所定の療養保証給付等の支給をY労基署長(被 告・控訴人・被上告人)に請求したが,Yは,Xが労災保険法上の労働者にあたらないことを理由に不支給処分とした.Xが当該処分の取り消しを求めて訴えを 提起したのが本件である.
 一審(横浜地判平5・6・17労判643・71)は,労災保険法の適用を受ける労働者が労基法上の労働者と同一と解すべきとした上で,Xの業務遂行に関する指示や時間的場所的拘束について,請負契約に基づく指図や拘束の範囲を超えるとしてXの労働者性を肯定した.
  二審(東京高判平6・11・24労判714・16)は,Xが労働者と事業主の中間形態にあるとし,そのような場合には原則として当事者の意図を尊重する方 向で判断すべきであるとした.そして,運送経費や損害賠償責任の負担,就業規則や福利厚生がないこと,社会保険の被保険者でないことなどから,Xの労働者 性を否定したYの処分を適法とした.X上告.
  〔判旨〕
  労基法上の労働者該当性…否定
 Xは,業務用機材であるト ラックを所有し,事故の危険と珪酸の元に運送業務に従事していたものである上,AはXの業務の遂行に関し,業務の性質上当然に必要な以上の指揮監督を行っ ていたとはいえず,時間的場所的拘束性の程度も一般の従業員よりはるかに緩やかであったことから,XがAの指揮監督の下で「労務を提供していたと評価する には足りない」.また,報酬の支払方法,公租公課の負担等についてみても,Xが労働基準法上の労働者に該当すると解するのは相当でないから,労災保険法上 の労働者にも該当しない,とされた.
 〔三人意見〕井馬 服部 山崎
 労災保険法上の労働者概念と労基法上の労働者概念は同一であるとした上で…
  Xが業務用機材であるトラックを所有、事故の危険と計算の下に運送業務に従事していたことから事業者性が認められるとした。また、一般従業員に比べて全体 的に拘束が緩いこと、報酬が出来高払いであること、その他、源泉徴収、社会保険、雇用保険の控除がされていないことなどを挙げ、使用従属性を否定し、Xは 労災保健法上の労働者に該当しないと結論づけた。(判旨賛成)
 
 〔議論〕
 (1)普通の労働者とは何が違うのか
  →トラック持ち込みによってリスクを負っていたのではないか
 (2)具体的指揮命令の有無
  →急いで届けるように言われて事故にあった場合にも具体的指揮命令はなし?
 *雇用契約において当事者意思は片面的に重視(=実質的に労務提供者が独立していても雇用契約ならば雇用契約扱いだけども、逆ならば意思に関係なく、労務の態様から実質的に判断) 
2NHK盛岡放送局(受信料集金受託者)事件
 (仙台高裁平成16年9月29日 労判881号15頁)
 〔事実〕
  原告(控訴人)X1らは被告(被控訴人)NHKとの間で、平成13年3月5日付「新規委託契約」に基づき放送受信料の集金及び放送受信契約取次等の業務を 行っていたが、NHKはX1ら2名に対し、業績不振を理由に平成13年9月30日をもって同契約を解約する旨の通知を行い、同日以降契約を継続しなかった ことにより、X1らがNHKに対し、NHKとの間の労働契約上の権利を有する地位確認等を求めた事案である。
 一審は、本件契約は労働契約の内容を有するとは認められず、NHKと新規受託者との間に使用従属関係があるとはいえず、新規受託者とNHKとの間にX1らが主張する労働従属関係を認めることはできないとして、X1らの請求を全て退けた。X1ら控訴。
 〔判旨〕
1. 本件契約の労働契約制の有無について…労働契約の内容を有するものとは認めることはできない
  本件契約が労働契約としての性質を有しているかどうかは、本件契約の内容を実態に即して合理的に解釈した場合、契約当事者間に指揮監督を中核とする使用従 属関係が認められるか否かによって判断するのが相当である、としたうえで、本件契約において、就業規則の適用がないこと、受託者には自由裁量があること、 具体的に定められた業務以外の業務への指揮命令がないこと、報酬が他のNHK職員に適用される職員給与規定が適用されることはないこと、報酬は税法上事業 所得とされること、業務の再委託や兼業も自由であることなどの事情を総合考慮し、本件契約の労働契約性を否定した。
2. 受託者の準労働者性の有無について…労働者性を認めることは出来ない
NHK が行う委託制度の目的及び方法について合理的なものと評価し、NHKの「ほとんど唯一の財源が受信料であることに照らせば、委託者である」NHKが「受託 者に対し、委託契約に基づく義務の履行を確保するための手段として一定の措置を講じたとしても、それらが直ちに委託契約の基本的性質を変容されるものでは ない」のであるから、委託契約の画一的処理、指導助言等についても、「委託契約を効率的に行い、一定の業績を確保するために、必要かつ合理的なものであ り、そのことが、労働契約の根拠になる受託者の指揮命令にあたるということはできない」とした。
また、X1らが募集用ちらしや事前説明用ビデオなどにより、「本件契約が労働契約とは異なる内容の契約であることを十分に理解した上で契約を締結」したものといえることから、X1らの労働者性を否定した。
3. 被控訴人による本件委託契約不締結の当否について…特段の違法は認められない
X1らを労働者に準じて扱うべきと解する理由がないので、契約は期間満了によって当然に終了するものと解するのが相当とし、契約を更新するか否かについても、契約自由の原則どおり、もっぱらNHKの自由な判断に委ねられているものと解すべきとした。
〔三人意見〕大原 高原 渡辺
判 例同様に、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所、勤務時間の拘束性の有無、労務提供者の代替 性、報酬の労働対償性、事業者性の有無、専属性の程度を総合考慮し、被控訴人と受託者との間に使用従属性は認められないとした。

〔議論〕
(1)形式的には委任、しかしその実態は?
→日常的な指揮命令はなくとも、包括的なコントロールはあるのではないか?
→逆に同じ性質であっても労働契約として当事者間で合意があったらどうなるのか?
(形式的に当事者間の合意があれば、そもそも労働契約として認められる)
 (2)NHKのコスト削減、リスク回避のための脱法的方法はどこまで保護に値するか?
→最終的には、価値判断の問題か(どちらの立場に立つかで結論は変わってくる)
3労働契約法制の課題に関して
 P61L9…「労働法の適用を望まない人」とはどのような人か?
→自由に稼ぎたい人(労基法が適用されると逆に不自由になる側面)
ex銀行マン、証券ディーラー
→時間についてはともかく、解雇と労災についてはどう考えるのか(実質的に労基法の適用で問題となるのはこの2つ)
⇒そこで経済的従属性で判断する第三のゾーンを設ける、グレーゾーン久慈説(実際に学説上も同様の見解が有力)
*現行法上の労基法適用されるゾーン、されないゾーンと、第三のゾーンの基準の違いをどう考えるのかは難題

[117] 第8回 2006年5月30日 投稿者:鈴村美和 投稿日:2006/06/05(Mon) 16:37:16

今週のテーマ:セクシュアル・ハラスメント
T 日本郵政公社(近畿郵政局)事件 (大阪高判平17.6.7 労判908-72)
【事実の概要】 荻原
  平成13年5月30日、X(原告、被控訴人)が午後3時45分から1時間の有給休暇を取得して、勤務終了後、本件郵便局の庁舎内の男性職員用浴室を使用し た。Y1(被告)は、総務課課長代理としての職務として、防犯パトロールのため、午後4時頃、本件浴室内に人がいるとは考えず、ノックをせずに、本件浴室 の扉を開け、いったん閉めた後、扉の「空室」の表示を確認した上で、ノックをして再び扉を開けた。
 本件は、XがY1からセクハラを受けたうえ、 上司等から救済の申立に対し適切な対応をとらないなどの二次セクハラを受けたとして、Y1に対しては不法行為に基づき、使用者であるY(被告、国訴訟継続 人日本郵政公社、控訴人)に対しては国家賠償法1条1項または債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案である。
 1審は、Y1が、浴室を男性職 員が使用している蓋然性が高いことを認識していたにもかかわらず、扉を開け、脱衣室内に立ち入り、上半身裸のXに近づき、じろじろ見ながら、「ねぇ、 ねぇ、何しているの」、「何でお風呂に入っているの」などと質問したという事実認定を前提に、Y1はXに対して、違法なセクハラ行為をおこなったと判断し た。また、Xがセクハラの申告をしたことにより不利益を受けるおそれがないように、Xから被害に関する詳細な事情を聴取する前に、加害者とされ、かつ管理 者であるY1にその申告の有無やその内容を告知してはならない職務上の法的義務があったにもかかわらず、Yの職員には、これを怠る違法な行為があったと判 断した。そして、XがPTSDまたは適応障害に罹患したとは認められないが、精神的損害の賠償として10万円と弁護士費用5万円の支払を命じた。Yが控 訴、Xが附帯控訴。
【判旨】控訴認容 附帯控訴棄却(原判決控訴人敗訴部分取消し)〔確定〕
1.Y1の本件言動が、違法なセクハラ行為といえるか・・・否定 
 Y1 は「労務や庁舎管理の責任を有する総務課の課長代理として、防犯パトロールの一環として本件浴室の状況を確認するために扉を開けたものであり、その際、浴 室内に人がいるとは考えなかったため、ノックをしないで開けたにすぎない。」「浴室内でY1がXに対してとった行動も、勤務時間内かどうかを確認するため に話しかけたにすぎず、目的も正当であり、そのために必要な範囲の質問をしたにすぎない。」よって、国家賠償法上違法であるとか、雇用契約上の義務違反 といえるセクシュアル・ハラスメントには当たらない。
2.Xの申立てに対する本件郵便局又は近畿郵政局の職員の対応及びその違法性について・・・否定 
「本 件のように、もともと1回限りの単発的に発生したとみられる事案であって、セクハラの申告があったことを加害者とされる者に秘匿しておかなければならない ような事情もなく、他に目撃者もいないような場合には、事実関係を正しく把握するために、他方当事者からも早期に事情を把握する必要がある場合も考えられ る。」。また、「本件郵便局において第1次的な対応がされていることを前提としながら、必要な働きかけもされているというべきであって」、「本件郵便局の 職員を指導監督すべき立場にある近畿郵政局の職員の行為も、国家賠償法上の違法又は雇用契約上の義務違反に当たるということはできない。」
【三人意見】井馬・大原・戸谷雅   
  セクハラ行為の有無と違法性の有無についてについては判旨賛成。だが、2次セクハラの有無と違法性の有無についてはA総務課長がX作成の報告書を認知した 直後、Xの事情聴取の前にY1の事情聴取や調査をしている一方、Xから事情を1週間も経過した後であること、Xが立会いを拒んでいるB郵便課長の立会いに 固執する余り、実質的にはXから事情聴取をおこなう事ができなかったにもかかわらず、逆にY1から事情聴取を行うことができなかったにもかかわらず、逆に Y1から事情聴取した内容を先にXに告知して、郵便局側において、すでに先に聴取したY1の主張する事実関係が信用できるとの判断をしているかのような対 応をしていることから、防止規定等に基づき、相談員が相談者に対し負担している職務上の義務に違反するもので、違法というべきである。
【四人意見】高橋・田中・張・山崎
  被告の行為の礼儀に反する側面や言葉遣いによって、原告に不愉快な思いをさせたことを否定できないとしても、そのことをもって直ちに、被告の行為を違法と することはできない。また、郵便事業庁におけるセクハラ防止規定および近畿通達の定め(事実関係の聴取につき、相談者、加害者、第三者の順に記載)に照ら しても、本件郵便局A総務課長らの対応(原告の申告を被告に示し、被告から先に事情聴取したこと、原告からの事情聴取がやや遅れたこと等)を国家賠償法上 違法であるとか、雇用契約上の義務違反であるとかいえるような2次セクハラに当たるということはできない。また、近畿郵政局の職員の対応についても、ひつ ような働きかけもされているというべきであって、違法ではなく、国家賠償法上又は雇用契約上の義務違反に当たるということはできない。(高裁支持)
【議論】
・セクハラの確認は1週間後では遅いか? → 普通は翌日(道幸先生)。
・ 男性の上司なら女性の浴室は素通りするのに、女性の上司ならば男性の浴室 を職務上見るのは変ではないか? → ジェンダーの観点からも検討する必要があ る。文化的に、性別による保護法益が変わる。例:銭湯の番台やトイレ掃除は女性が行っている。男性助産師が認められないのも同様の理由。
・セクハラの基準 → 昔:一般の人が嫌と感じる程度。現在:その人が嫌と感じる程度。 *本件は、一般の人に照らして検討している。
・男性から男性に対してもセクハラになるか? → ジェンダーの観点からも検討する必要がある。
・途中から、女性になり女装して出勤(女子更衣室使用、女子トイレ使用)した事例 → 自由にならない病気として解雇された判例有り。

道 幸先生:セクハラは、被害者がどういう形で処理して欲しいかを確認後、話を進めていく。加害者に会う前に、被害者から話(被害者の不利益)を聞かないと話 は進まない。また、申告している他にもセクハラがある事がある。セクハラは不法行為の基準としても使える。アメリカでは2%が女性から男性へのセクハラ事 件。本件は、通常の“嫌がらせセクハラ”とは異なる。主観に社会性があるかを考えること。本件においては、1審と2審の事実認定が異なることにも注意。最 近は、相談に絡む2次セクハラの訴え(@対処してくれないA聞き方がセクハラみたい等)が多い。
U 地公災基金東京都支部長(東京都海外事務所)事件 (東京地判平16.12.6 労判887-42) 
【事実の概要】 服部
X (原告)が、Y(被告地方公務員災害補償基金東京都支部長)に対し、上司から性的暴行を受けた結果発症した外傷後ストレス障害(PTSD)等の精神的障害 が、引き続き同上司の元で勤務したことによって悪化し、その後も職場で精神的障害に対する適切な対応がなされなかったことにより憎悪した結果、業務に従事 できない状態に至ったとして、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、Yが、これを公務外災害とする処分をしたため、Xが、本件処 分の取消しを求めた事案である。
【判旨】棄却〔確定〕
1.本件性的暴行についての公務災害遂行性の成否・・・否定
 疾病 が公務災害によるものであるというためには、本件性的暴行に公務遂行清華認められなければならない。XがAを自宅に招きいれたことは、公務とは無関係な勤 務時間外かつ事業施設外の私的な行為にすぎず、公務として支配従属関係に基づいたということは出来ないのであり、本件性的暴行発生時に、実質的な使用者で ある任命権者の支配下にあったということは出来ず、公務遂行性が欠ける。よって、一体の行為の中の中核部分を占める本件性的暴行についての公務遂行性がな いというべきである。よって本件性的暴行等は公務遂行中の事故と認めることは困難である。
2.本件性的暴行と本件疾病との間の相当因果関係、すなわち公務起因性の成否・・・否定
  本件性的暴行は公務遂行上の事故ということは出来ず、そうだとすると相当因果関係の存否について判断するまでもなく、Xの職場と本件疾病の発症の間には、 相当因果関係、すなわち公務起因性が認められないというほかない。そして、本件疾病は、本件性的暴行ないしその後におけるXとAとの間の私的な交際、葛 藤・破局等の中から発症したものと認めるのが相当である。
【三人意見】小泉・山本・渡辺
 Xは本件性的暴行の勤務に疾病が起因す ると主張しているが、本件性的暴行について公務遂行性が認められないことから、その勤務が本件性的暴行の延長線上にあることと照らすと、その後の勤務にも 公務遂行性は認められない。本件性的暴行は、公務遂行性が認められないため、Xの疾病には当然に相当因果関係が認められず、つまりは公務起因性も認められ ない。仮に、本件性的暴行等に公務起因性が認められたとしても、Xの当該疾病の原因は公務とはほとんど関係がなく、XとAとの私的な交際・葛藤・破局等の 中から発症したものであるから、結局本件性的暴行等には公務起因性は認められない。(判旨賛成)
【三人意見】高原・棚橋・宮山
  野球大会の支援事業が終わるまでは、事業施設外であったとはいえども、公務に従事し任命権者の支配下にあったといえる。しかし、その後原告は公務に伴う作 業を行っていたわけでもなく、任意の行動がとれる状態にあったものと解することができるから、公務終了後1時間30分以上経過した後に、原告の自宅で発生 した本件性的暴行は、就業時間外かつ事業施設外で発生したことが明らかである。また、本件性的暴行は公務とは無関係の理由で発生したこと、原告の職務が性 的暴行に遭うような性質のものではないこと、本件性的暴行は就業時間外かつ事業施設外で発生したことなどを総合考慮すると、本件性的暴行は、原告の職務に 内在する危険が現実化したものとはいえない。よって、原告の職務と本件疾病との間には、公務起因性が認められない。(判旨賛成)
【議論】
・本件のように海外であれば、必ずしも業務外とは言えないのでは? → 海外というより、地位を利用した場合に問題となる(道幸先生)。ただし、ザンビアなどのように他に逃げ場がない場所なら問題だろう(斉藤助手)。 
・公用車で乗りつけたのは問題? → 本件においては関係ない。
・被害者が単身赴任なのは関係ある? → 本件においては関係ない。
・安全配慮義務(ヤバイ男性を当該職場に送り込んだことが問題なのか)との関係は? → 本件では、そうとはいえない。
・労災との関係は? → セクハラは、あくまで“どこまで会社の仕事と関係があるか”ということ。具体的な状況をつくれば、それは地位と関係あると考え、会社が責任を負うとされる。公務災害よりも、労災の方が、狭い考え方。
・見たのが仕事のビデオで後の状況は同一だったとしたら? →  認められない。
道幸先生:本件において、安全配慮義務との関係で、業務と絡めた時の問題を検討すること。公務遂行性と公務起因性ならば、起因性があれば良い。遂行性が認め られれば、起因性は推定される。また、一般の民事事件としての使用者責任についても検討すること。セクハラ事件で、公務遂行性が認められるものは非常に稀 だ。
【まとめ】本日のセクハラ事件は、2件とも特殊なケース。また、判例法になり得る最高裁の事例は今のところ無い。均等法21条にセク ハラ関連の規定があり、1項は体感型、2項は環境型。現在、改正の動きが出ており、間接差別をどうするか、セクハラの対象者は女性だけではなく男女平等に する等が検討されている。

もどる